海外赴任規程を策定・改定する際、最も見落とされがちなポイントが「税務」「労務」「社会保険」です。
これらは複雑で専門性が高いため、国内人事を兼務している担当者にとってはハードルが高い領域です。
しかし、ここを誤ると、企業にとって重大なリスクが発生します。以下では、分かりやすく、押さえるべき注意点を詳しく解説します。
5-1 税務上の注意点
海外赴任者の給与や手当の取り扱いは、税務上のリスクを伴います。特に注意すべきは、寄付金課税とPE課税(Permanent Establishment課税)です。
① 寄付金課税とは?
親会社が海外子会社に出向社員を派遣し、その給与を親会社が負担する場合、税務当局から「寄付金」とみなされることがあります。寄付金と判断されると、損金算入が認められず、法人税負担が増加します。
失敗例
親会社が給与を全額負担 → 税務調査で寄付金課税を指摘
結果、数百万円単位の追加納税が発生
対策
・規程に「給与負担の原則」を明記(基本は現地子会社負担)
・親会社負担分は合理的な範囲に限定
② PE課税とは?
PE課税とは、海外子会社が日本企業の「恒久的施設」とみなされ、現地で法人税課税されるリスクです。出向社員が現地で経営判断を行う場合、PE認定される可能性があります。
対策
・規程に「出向社員の権限範囲」を明記
・経営判断は原則本社で行う仕組みを構築
5-2 社会保険の取り扱い
海外赴任者の社会保険は、日本と現地の両方で加入義務が発生する場合があります。ここを誤ると、後から追徴課税や保険料の二重負担が発生します。
① 日本の社会保険を継続するか?
国内本社に在籍したまま出向する場合、日本の社会保険に継続加入するケースが多いです。
対象保険:厚生年金、健康保険、雇用保険
注意点:介護保険は国内居住者のみ対象なので、海外赴任者は免除されます。
② 海外での社会保険加入義務
国によっては、現地の社会保険への加入が義務付けられています。
例:中国、ベトナム、タイ → 社会保険加入必須
香港、シンガポール → 任意加入
対策
・規程に「現地社会保険の取り扱い」を明記
・二重加入を避けるため、協定国の制度を確認
5-3 労務管理の注意点
海外赴任規程には、労働時間や休暇制度の取り扱いも明記する必要があります。
現地法令に違反すると、企業は罰金や訴訟リスクを負います。
具体策
・現地の労働基準法を調査し、規程に反映
・長時間労働防止のため、勤務時間管理をクラウド化
・有給休暇や一時帰国制度を明確化
5-4 手当の種類と金額相場
海外赴任規程には、手当の種類と支給基準を明確に記載する必要があります。
代表的な手当
・海外勤務手当(赴任を推奨するための特別手当)
・ハードシップ手当(危険地域赴任時の補償)
・子女教育手当(現地学校や日本人学校の学費補助)
・赴任・帰任手当(引越し費用など)
相場感
総報酬額は国内勤務と比較して1.5~2倍程度になるケースが多いです。