海外赴任規程は、単なる「給与や手当の取り決め」ではありません。
企業が海外赴任者を安全かつ公平に扱うための基本ルールであり、法的リスクや従業員満足度に直結する重要な制度です。
しかし、現実には「他社の規程を参考にしただけ」「古い制度をそのまま流用した」というケースが少なくありません。 その結果、企業は重大なトラブルに直面しています。
4-1 海外赴任規程の本来の目的とは?
海外赴任規程の目的は、次の3つに集約されます。
生活水準の維持
海外赴任者が赴任前と同等の生活水準を維持できるよう、給与や手当を設計すること。
これは「購買力保障方式」や「併用方式」などの考え方に基づきます。
安全と健康の確保
赴任地での安全対策や医療支援を制度化し、企業の安全配慮義務を果たすこと。
公平性と透明性の確保
海外赴任者と国内勤務者の間で不公平感が生じないよう、手当や福利厚生の基準を明確化すること。
4-2 よくある失敗事例
① 他社の規程をコピーした結果、福利厚生が過剰に
「取引先から規程を見せてもらって、それをもとに作成した」というケースは珍しくありません。しかし、この方法では、自社の実情に合わない制度が導入され、過剰な福利厚生が企業負担を圧迫します。
失敗例
大手企業並みの住宅手当を設定 →中小企業ではコスト過大
子女教育手当を全額負担 →財務負担が増加し、他の制度にしわ寄せ
② 国内給与体系との整合性が崩れる
海外赴任者だけが過剰に優遇されると、国内勤務者との不公平感が高まり、組織全体の士気低下につながります。逆に、海外赴任者の待遇が不十分だと、赴任拒否や離職リスクが高まります。
③ 税務・社会保険の整合性が取れない
海外赴任規程を適当に作成すると、税務や社会保険の取り扱いで問題が発生します。
具体例
親会社が給与を負担し続けた結果、寄付金課税の対象に
社会保険の加入要件を誤り、後から追徴課税
4-3 なぜ失敗するのか?
失敗の原因は、次の3点にあります。
1.専門知識不足:税務・労務・為替リスクを理解せずに制度設計
2.将来予測の欠如:複数拠点展開や長期赴任を想定していない
3.説明責任の軽視:社員への説明不足で不満やトラブル発生