2025年現在、海外赴任を取り巻く環境は、コロナ禍以前とはまったく異なる様相を呈しています。
企業が海外赴任規程を見直すべき理由は、単なる「制度の古さ」ではありません。
世界の構造変化が、企業の人事戦略に直接的な影響を与えているのです。
ここでは、最新のトピックスを踏まえ、なぜ今、海外赴任規程の改定が急務なのかを解説します。
1-1 地政学リスクの高まりと安全管理の重要性
ウクライナ情勢、中東不安、台湾問題など、世界は不安定さを増しています。
これらの地政学リスクは、企業の海外事業に直接影響を及ぼします。
特に海外赴任者の安全確保は、企業の「安全配慮義務」に直結する問題です。
安全配慮義務とは、企業が従業員の生命・身体の安全を守る法的責任のことです。
赴任先でテロや暴動が発生した場合、企業が適切な安全対策を講じていなければ、損害賠償請求を受ける可能性があります。
企業がやるべきことは何か?
・赴任地の治安情報を常時収集する体制を構築
・緊急連絡網を整備し、24時間対応可能な窓口を設置
・医療体制や避難計画を規程に明記し、社員に周知徹底
これらは「海外赴任規程」に必ず盛り込むべき項目です。
安全対策を曖昧にしたまま赴任させることは、企業にとって重大なリスクです。
1-2 為替変動と物価高騰によるコスト増
2024年以降、円安・円高の乱高下が続いています。
為替変動は、海外駐在員の給与や生活費に直接影響します。
例えば、円安が進むと現地での生活費が急増し、駐在員のモチベーション低下や離職リスクにつながります。企業は、こうした為替リスクに対応するため、給与体系の見直しや「為替変動調整給」の導入を検討する必要があります。
なぜ重要なのか?
駐在員の給与が現地物価に追いつかない場合、生活水準が著しく低下します。これは、企業の「購買力保障義務」に関わる問題です。購買力保障とは、赴任前と同等の生活水準を維持するための給与設計を意味します。
1-3 法規制・コンプライアンス強化
GDPR(EU)、中国の個人情報保護法など、海外での労務管理やデータ保護の規制は年々厳格化しています。違反すれば巨額の罰金や企業ブランドの毀損につながります。
海外赴任規程には、個人情報の取り扱いや現地法令遵守の仕組みを組み込むことが不可欠です。
具体的なリスク例
現地での労働時間管理が不十分 →労働基準法違反
個人情報の取り扱いが不適切 → GDPR違反で数千万ユーロの罰金
1-4 ESG・人権配慮の義務化
近年、企業評価においてESG(環境・社会・ガバナンス)が重視されています。
海外赴任者の生活環境や家族支援も、ESGの観点から重要視されています。
例えば、現地での教育支援や医療体制の整備は、企業の社会的責任の一部です。
これを怠ると、企業ブランドの低下や採用競争力の低下につながります。
1-5 DX化と人事業務の効率化
リモートワークやオンライン会議の普及により、海外人事業務もデジタル化が急務です。
紙ベースの申請や承認は非効率で、クラウド型管理システムの導入が進んでいます。
メリット
・海外拠点と本社の情報共有がリアルタイムで可能
・承認フローのスピードアップ
・コンプライアンス違反の防止